NOMUSIC NONOVEL

当サイトは創作小説サイトです。同性愛・軽い性描写がありますので、嫌悪を抱かれる方は閲覧をご遠慮ください。初めての方は「ごあいさつ」をお読みください。

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Posted by 泡辺海太 on

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ごあいさつ

Posted by 泡辺海太 on

★このブログについて★
このブログは小説と音楽が好きな泡辺という人間が、創作小説をUPしたり、たまに音楽で爆発したりするブログです。物語の中で男同士が恋に落ちたりしますので、不快に思われる方は閲覧をお控え下さるようお願い申し上げます。
誤字・脱字報告、感想などいただけるととても嬉しいです。その際は拍手かメールフォームにてお願いいたします。あと、趣味程度の拙いものですが無断転載はお控えください。

★作品傾向★
甘酸っぱい青春もの。
たまにコメディも書きます。
もやっとした終わり方が好物かも。

★リンクについて★
リンクはフリーです。どぞ、ご自由に。
→http://nomusicnonovel.blog10.fc2.com
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★その他、登録サイト★
二次創作(進撃の巨人・おおきく振りかぶって・タンブリング)→Pixiv
軽めでハピエン傾向です。基本ラブコメ→ムーンライトノベルズ

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作品目次

Posted by 泡辺海太 on

★性描写がある場面でもR18と表記していない場合があります。その旨ご了承下さい。
★リンク張りが追いついておりませんので、右側のカテゴリからタイトルをクリックすれば全話読むことができます。

★掌編小説(1,2話だけのもの)★
SNSの企画ものがほとんどなので、BL要素は薄めかコメディ、またはNLがほとんどです。
目次は別ページで開きます。

★短編小説(10話以内のもの)★

「CDショップ店員になりました(全4話)」
青春/音楽/コメディ/友情
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 お前がみんなからの信頼をなくしたとしても、おれだけは味方でいてやるぜ、ちくしょう。
 さんざんな入荷日だったけど、良いことも少しあったのかも。
【概要】
夢に熱い男、洋楽ロック担当の大川と、現実を見据え冷めている、洋楽ダンス担当の藤堂の、てんやわんやなCDショップでの日常。というか友情の話。

「きみのためにできること(全7話)」
海外/自分探し/孤独/青春/友情
コピー ~ IMG_1297
 ゆうへいがじっとその黒い瞳を向けているのがわかった。僕はそれに視線を合わせないまま、ずっとタバコを見て呟いてた。自分自身に語りかけるように、ゆうへいに話しているなんて思わないように。そうしないと、本音を話せない気がした。僕たちのタバコは、吸わないまま灰になって燻っていた。
【概要】
ワーキングホリデーで海外のファームで働いているかなたは、これからの生活について心に闇を抱えている。そこへ、一見能天気なゆうへいがやってくる話。

「君の笑顔を待っている(全6話)」一部R18
いじめ/高校生/孤独/友情/一部R18
 背筋が凍るような思いだったが、郁は大賀の前から動かなかった。
 チャイムが鳴りみんな席に着いても、郁は最後まで大賀を庇うように立っていた。
【概要】
仲間はずれにされたくない一心で、同級生からのセクハラに耐えていた郁だったが、クラスメイトの大賀にその場面を見られてしまう。毅然とした態度の大賀に、郁は憧れを募らせてゆく話。

「バーバリーのマフラー(全4話)」
大学生/片思い/ロンドン/好きで好きでたまらない想い
4.gif
 真空に溶けてゆく息はいつも純白だった。
 大学の休み時間、タバコを吸いながらお揃いのマフラーに鼻をうずめる。
 こうも寒いと、一層恋しくなる。
 体温、鼓動、まっすぐ見つめるまなざしだけでもいい。きみが吐く息の温かさを、おれにもください。
【概要】
 吉沢弥彦は友人の哲平に高校から片思い中。同じ大学に進み、毎日アタックを続けるが……。

「スロウダイヴ(全4話)」
大学生/引きこもり/兄弟/モラトリアム
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 そのときちょうど、音が鳴り止んだ。
 あとには喪失感と俺達の吐息だけが残った。
 波紋がゆっくりと引いてゆく。
 現実の世界が幕を開ける。
【概要】
結人の兄、アサトは引きこもりだ。しかし、引きこもりながらも好きな音楽を創ってお金を稼いでいた。結人はそんなアサトを慕うただ一人の理解者だったが、自身が就職活動をするときになり、自分が何をしたいのか分からなくなってしまった。そこで結人は、ある決心をするが……。

「おれとお前のラブゲーム(全7話)」一部R18
ヤンキー/コメディ/下品/一部R18
「あゆむ、オレの彼女になって」
「んー? 最近耳掃除してないから、よく聞こえなかったんだけど……」
「耳掃除ならオレがしてやるよ。それとも舐めてやろうか」
「……ケンジ」
【概要】
男らしいヤンキーになりたいあゆむだが、友人のケンジから告白されたことによりどんどん妙な方向へ突っ走っていってしまうアホエロコメディ。

「さよなら、ファインマン」
先生と生徒/物理/ストイック
 先生 おれ 知りたいんです
 どうして人は愛するのでしょうか

「無敵の存在(全3話)」
いじめっ子/いじめられっこ/再会
 秋山みひろはアホだ。もう、アホ、バカ、救いようもないほどバカ。テストはいつも白紙だし、ノートなんか真っ白だ。
【概要】
 アホすぎる秋山みひろは皆からいじめられていた。しかし、みひろはいじめられていることすらわからなかったので、毎日笑顔で学校へ来ていた。ずっと同じクラスだった慎之介は懐いてくるみひろに惹かれていたがそれを表すこともなく、みんなと同じように邪険に接していた。しかし三年後、みひろから突然手紙が送られてきて……。

★中・長編小説(10話以上のもの)★

「ロストマン(全34話)」
青春/バンド/緊迫感/切なめ/ストーカー/洋楽/友情
lostman
 相原佐助 二十一歳 職業バンドマン
 昨日オレは人生最大の汚点を残した。
【概要】
サスケはバンドでボーカルをやっている。しかし、ある行き過ぎたファンに歪んだ愛情を抱かれレイプされてしまう。何があったか本当のことを言えないサスケを、バンドメンバーたちは支えあうが……。

「止まない鼓動(ロストマン・番外編)(全8話)」
彼らのその後。

「Idiots&Idiots(全34話)」
バンド/夢/青春/切なめ/友情/高校生/孤独
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「オレらのギタリストは永久欠番だ」
おれが死んでもこんな風に想ってくれる仲間がいれば
こんな風に想い合える仲間ができれば
【概要】
高校生の音羽(オトワ)はゲイだということに劣等感を抱いている。それでも、大好きな音楽を奏でているときだけ自分に自信が持てる。軽音部に入部してからは、超オレ様なキリシマや優しいヒロムたちと一緒に音楽をやり始めたが……。高校生達の疾走する青春時代。

「おれの弟はダビデ像(全11話)」
コメディ/高校生/豪邸/アホ/BLとはファンタジー
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「お帰りなさいませ。渉様」
 目の前にはタージ・マハールのような白亜の宮殿。
 広大な敷地に広がる英国風庭園の中にその豪邸はそびえていて、扉に繋がる長い一本道には、メイド服を着た女性やら男性やらが並び、お時儀をしながら一斉に挨拶をした。
【概要】
 渉は親の再婚で貧乏生活から一転、西園寺家の豪邸に住むことになってしまった。再婚相手も同い年の息子がいると聞いて戸惑う渉だが、予想以上に波乱万丈な生活が待っていた。 

「Atoms for peace」
SF/核/近未来/地球/アクション/少しBL
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「オレはあいつにもう一度会いたいだけなんだ」
――高鳴るこの胸の痛みの理由を知りたい。
【概要】
 AD2101年、連合国対枢軸国で核戦争勃発。戦争終了後、人は戦争の残骸の残る大地を見捨て、空へと移住した。その五十年後、キースは一人の青年と出会う。その青年は、都市の人間にはない黒髪をしていた。

「無常の花(全31話)」一部R18
ヤクザ/少し暴力表現あり/純愛/日本的/緊迫感/切なめ/一部R18
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 或は露落ちて花残れり
 残るといへども朝日に枯れぬ
 或は花しぼみて露なほ消えず
 消えずといへども夕べを待つことなし
                   ――鴨長明『方丈記』より
【概要】
大学生の優樹は、チケット欲しさにダフ屋の孝太と知り合う。孝太に友達になってくれと言われ、始めは戸惑うも違う世界で生きる孝太に少しずつ興味が湧いてくる。好奇心か、同情か、それとも違う何かなのか、人間の強さと儚さとともに、優樹はゆっくりと知ってゆく。

「初期衝動(全17話)」
幼馴染/青春/バンド/ニルヴァーナ/夢
syokisyodo
 全て忘れてしまっても 
 おれがお前を忘れない。
【概要】
タケルとテンジンは幼馴染として育ってからずっと一緒にいて、中学生になってからはバンドを組むようになった。しかし、ある日突然テンジンは姿を消してしまい……。

「夏の薫り、辿る道(全20話)」
青春/高校生/片思い/夏休み/甘酸っぱい
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 零れた言葉とともに、頼りない手首を引き寄せた。
 このままでいられたらいいのに。となりに、いつもこうして日向がいてくれたらいいのに。
【概要】
クラスメイトからはクールだと思われがちな小嶋。自分とは真逆な日向と接するうちに惹かれていく自分に気付くけれど、男に恋をしてしまった気持ちが信じられずに葛藤の日々が始まる。

「呼子鳥~僕を呼ぶ声~(全50話)」 
高校生/切ない/青春/惑う心
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 きみが呼ぶ声、おれはいつも嬉しくなる。
 大人びたきみが、子供みたいに顔をほころばせるから、おれたち、いつまでもこのままでいられると思ってた――。
【概要】
 片思いを経て、両思いになった小嶋と日向。
 理想と現実のギャップ、友情と愛情の狭間で揺れ動く心、十七歳という繊細な年代の中、男同士というハンデを乗り越えて辿り着く先は……。
 二人がくっつくまでに興味がある方はこちら「夏の薫り、辿る道」をお読みください。

「SWAP(全40話)」
サスペンス/ホラー/殺人
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 ――どこなんだ、ここは……。

 暗くて辺りがはっきりしない。明かりといえば遠くで揺れる蝋燭の炎だけだ。おれは壁の端まで這いずり、あるはずの電気のスウィッチを手探りで見つけようと試みた。頭が痛くて立ち上がるのも辛いが、眩暈を感じながら壁づたいに床を踏みしめる。
【概要】
 記憶がおぼろげな二人の男が、大きな洋館に閉じ込められていた。目的も、犯人も不明な極限状態の中で、何とか謎を解明しようと試みるが……。

「ライオット!(全14話)」一部R18
殺し屋/アクション/暗い過去/シリアス?/流血
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 怖い。死にたくない。こんな終わり、嫌だ。
 そう思い必死に逃げるけれど、サングラスをかけた男に引っ掴まれ倒される。すかさず右手の銃を奪われ、馬乗りされ顔の目だし帽をひったくられた。
【概要】
 辛い過去を持つハルと、敵フジノ。しかしその裏には思いがけない因縁があった。そんなシリアスでありながらおちゃらけてる、なんちゃって殺し屋の悲しく切ない恋物語。(嘘)

「いつか跳べる日」

 学校に行く足取りが軽くなった。
 広河は白い曇り空を見上げ、そう思った。
 今日もアキに会えるだろうか。もっとたくさん話ができるだろうか。
【概要】
 病に冒されたアキと、殺人犯の父を持つ広河の物語。

「あの空の向こうへゆこう(全12話)」
夢/過去の恋/海外/大人
 この歌を聴くと、今でもきみに会いたくなるよ。
 きみの好きな歌だから、長い間聴かずにいたけれど。
【概要】

「瞳閉じれば」
聴覚障害/中学生/幼馴染み

 音もなくきみが笑う
 音が消えた世界でも きみがいてくれるなら音なんていらない

「フリーダム!」
監獄/バトルロワイアル/SF/強姦描写あり

 近未来の地球。
 都市はスラム化し青少年の犯罪率が増加。刑務所は飽和状態。そこで政府は考えた。更生プログラムの一環で殺し合いをさせればいいのではないのか。そして、テストと称してその第一回目が行われようとしていた。

★監獄ものバトロワです。多大に厨二、猟奇・流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控え下さい。




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19・瞳閉じれば

Posted by 泡辺海太 on

19・瞳閉じれば

 その日、悠里の部屋で指揮練習をして、陸にも上手いと褒められた。二日後にはもうコンクールなので悠里ははりきって練習を続けたが、陸はいつの間にか寝てしまったようだ。夏の大会に向けてトレーニングを頑張っている陸は、最近とても眠たそうだった。家に帰ってからも筋トレに励み、ジョギングをして、悠里の指揮練習に自分のクラスの指揮も練習しなければいけないのだ。

 時計は17時を回った頃だった。まだ晩御飯まで時間もあるし、そのまま寝かせておいた。机に突っ伏して気持ちよさそうに眠る陸。寝顔は小学生の頃と変わらなくて可愛かった。悠里はここぞとばかりに無遠慮に眺める。その無防備な寝顔を。
 意外とまつげが長い。低いけど小作りな鼻。清潔な襟足。てのひらが大きい。指と指の間の皮膚が水かきのように進化している。
 更に近づくと、微かにプールの塩素の香りがする。
 陸の髪の毛は染めてはいないが、塩素と陽に焼けて、ところどころ茶色くなっていた。その部分を手にとって眺めてみた。泳いだあとの髪の毛はすでに乾いてパサパサしている。

 広いせなか……

 日に焼けた肌に手を伸ばしかけたとき、突然手首をつかまれた。
 悠里は驚きの表情を隠せないまま赤くなる。そんな悠里を陸は寝ぼけ眼で眺めると、ゆっくりと手首を離した。悠里はそのじんじんと熱い手首をすばやく隠してうつむいた。
 しばらくの沈黙の後、視線は悠里の方へ向け、陸は緩慢な動作でまた机に突っ伏した。

「ゆうちゃん……明後日はコンクールだね。正直ね、オレ、ゆうちゃんがここまで上手にやれるなんて思ってなかったんだ」
『……』
「でもゆうちゃんは、努力して、できるようになった。オレが思うよりもゆうちゃんは強くて、オレ……それがほんとに嬉しいんだ。拓郎も頑張ってたみたいだし、ゆうちゃんたちのクラスが優勝すればいいなって思ってる。その方が、自分のクラスが優勝するよりも何倍も嬉しい気がする」

 陸は微笑み、悠里は瞳を潤ませていた。
 このまま時が止まればいいと、悠里は思っていた。

「なんで泣くの?」
『う、うれしいから……』
「目おおきいね。こぼれそう」

 じっと見詰め合うのが恥ずかしくて、悠里は目を背けた。本当は陸のその綺麗な目を見つめていたかったのだけど、あちらがあまりにもまじまじと見つめるものだから、前髪のない悠里には耐えられなかった。そんな悠里を眺めながら、つい言葉が出た。

「ねえ、ゆうちゃんは――……」

 視線を背けていた悠里には伝わっていなかったので、陸はそこまで言いかけてやめた。突っ伏した状態から上体を起こした陸は、悠里がこちらを見てくれたことを確認して言葉を続ける。

「今日、家に帰りたくない」
『? え、な、なんで?』
「泊まっていってもいい?」
『い、いいよっ! いくらでもっ! おおおれ、床でねるしっ』

 部屋を急いで片付けだす悠里を見て、陸は吹き出した。なんだか必死な悠里が異様で笑えたのだ。悠里が自分のクローゼットから新しいパジャマを引きずり出しているところで、それを静止した。

「ごめん冗談だよ。オレね、新しい父親ができるんだ。今日、そいつが晩飯食べにくる」
『え……』
「オレにとっちゃ赤の他人だぜ? なのにいきなり新しい父親だなんてバカげてる。それにあいつなんだかキモいんだよ。視線がこうさ、べっとり湿ってるっていうかさ……」
『……』
「あいつホモのロリコンだったりして、ははっ」

 陸は、悠里が気の毒になるくらい自嘲気味に笑うと「ごめんね、こんな話して」と謝った。
 悠里は、今まで陸には悩みなんかないと思っていた。弱いところなんか自分に見せなかったし、陸だってこんな自分に見せまいと思って接してきたんだろう。
 でも本当は……。
 そこまで思って、悠里の鼻の奥はつーんと痛くなった。泣きたくないのに涙がこみ上げてくる。

「ゆうちゃん、ほんと泣き虫だね……」
『ひっく……』

 陸は近くにきて背中をさすってくれた。そんな陸が愛しくて、手のひらのぬくもりを感じながら「陸を守りたい」と心の中で繰り返していた。今の自分なら陸を守れるだろうか。少しは頼りにしてくれるだろうか。陸を部屋に泊めて、嫌なこと忘れるくらい一晩中笑顔にしてあげられるだろうか。陸が笑えないときは、これから一生分の自分の笑顔を陸にあげても構わない。自分が笑えないときは陸が笑ってくれていたからこそ。

 時計は18時をまわり、部屋をノックされた。悠里の母親の声だった。

「陸君、お母さんが迎えにきたわよ」

 悠里が慌てて扉を開けると、陸の母親も一緒に立っていた。

「陸、今日は早く帰ってこれたからもう晩御飯できてるわよ。あら、悠里君髪切ったの?」
「そうなのよ。なんでも、拓郎君の知り合いの方に切ってもらったみたいで」
「かっこいいじゃないっ! ずっとこの髪型でいなさいよ~」

 能天気な母親とは正反対に、陸は無言で席を立った。そして落ち込んだ様子で悠里の母親にお辞儀をすると足早に出て行った。陸の母親、留美は「ちょっと待ちなさいよ~」と陸の袖を引っ張るが、それを振り払われてため息をついた。

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18・瞳閉じれば

Posted by 泡辺海太 on

18・瞳閉じれば

 次の日の朝、いつも通り陸が一番最後にマンションのエントランスにたどり着くと、見違えた姿の悠里がはにかんでいた。長年一緒にいて素顔を知っている陸は悠里の本当の顔を知っていたので、驚きと嬉しさで一杯になった。恥ずかしがり屋の悠里はわざと自分の顔を隠していたのを知っていたが、その野暮ったさはいつも勿体無いと思っていたのだ。

「ゆうちゃん、髪切ったんだ!」
『うん』
「こっちの方がいいじゃん、すごい似合ってるよ! な、拓郎」

 隣にいた拓郎は頷いた。しかし、拓郎が何事もなかったかのような顔をしているのが、悠里には少し寂しかった。また笑いかけてくれると思っていたのだが、陸の前では拓郎は絶対に笑いかけてくれない。かと言って、陸と笑い合っている姿を見られている気がして頬が熱くなる。
 そして突然拓郎は「先に行く。悠里を頼んだ」と言い残して行ってしまった。

「どうしたのかな。昨日の遅刻がきいたのかな」
『多分……』
「でも、ゆうちゃんマジ凛々しくなったよ。だからオレ、ずっと言ってたでしょ、髪切った方がいいよって」

 悠里は拓郎が、陸を好きな自分のために気をきかせてくれたのだと理解した。陸は悠里のイメチェンが気に入ったようだし、いい雰囲気だと感じたのだろう。陸は上機嫌で悠里の髪型を褒めてくれた。好きな人にそう言われて嬉しくないわけがない。でも悠里は何かもやもやとしたものを抱えていた。拓郎が気になって仕方ないのだ。彼のやさしさは、どんな感情からくるものなのかとても気になって仕方ないのだった。
 悠里は考えていた。もしかして、自分のことを好きなのだとしたらどうしよう。でも、拓郎は自分が陸のことを好きなことを知っているしそれを応援してくれている。好きならあんなに普通ではいられないのではないか。そして、こうしてわざと二人きりにさせることはないだろう。
 そこまで考えたとき学校に着いて、陸と「またね」とさよならを交わしクラスに入ると悠里は注目の的だった。

「これがあの岡崎?」
「初めて顔見た」
「なかなかイけてんじゃん」

 その注目度は悠里が後ずさりをするほどだった。皆の視線が怖い。俯いても覆い隠す前髪はもうない。だからもう前を向いているしかなかった。心細くなった悠里は振り返って、すでに席についていた拓郎の方を見た。そんな拓郎は悠里に軽く頷く。緊張で震えながら静かに席に着くと、皆の視線はまた元通り他の場所へと散らばった。拓郎が後ろで見ている、それだけで悠里は守られている気がした。

 その日の音楽の時間、悠里は皆の前に立っていた。見えるようになったのは皆の表情だ。皆自分の指揮を見てくれている、そんな自信が更に堂々とした指揮につながった。悠里の手の動きに合わせての、リタルダンド、クレッシェンド、そしてフォルテシモ、という流れは皆の口元を見れば容易に合わすことができる。
 悠里と拓郎と皆の動きが一体となって、最後にピタリと静止する。全てのタイミングが合ったことがわかって、皆も悠里も笑顔になった。



「岡崎、お前、耳聞こえないのにすげえな!」



 指揮練習が終わったあと、肩を叩いてきたのは拓郎の友達だった。いつも悠里を煙たい視線で見ていた目は、好奇のものに変わっている。それにつられて、もう数名が会話に加わった。

「さっきの完璧だったよ!」
「聞こえないとは思えないくらい」
「そうそう。どうやって合わせてんの?」

 次々と繰り広げられる会話に自分への質問が混じっていることに対して、悠里は戸惑った。悠里の答えを興味津々なまなざしで待つクラスメイトに耐えかねて、勇気を出して答えてみる。手話は通じないと思うので口パクだ。

『……えと、みんなの、動きとか』
「?」

 悠里の口パクは慣れない人には伝わりづらいので少し変な間が流れた。それを察した悠里が冷や汗を流して困っていると、遠くから拓郎がやってきた。

「秘密だって」
「え、そんなこと言ってねえだろ」
「お前には教えないって。うざいから」
「拓郎!」

 そんなやりとりの隙間から、拓郎は「もう行け」と顎でサインしてくれる。そんな拓郎に悠里はそっと「ありがとう」の手話を送った。それに気付いた人がまた悠里に寄ってきた。

「それ、手話だろ? なんかかっこよくない?」
「手話って難しいの?」
「ばあか、むずいに決まってんじゃん」
「岡崎って頭いいんだな」

 始めはうろたえていた悠里だったが、皆に囲まれるのは恥ずかしいだけじゃなかった。皆が自分をクラスの一員として迎えてくれたのだという気がして胸が熱くなる。今まで疎外感ばかり感じていた学校を、陸の側にいなくても地をしっかりと踏みしめて歩いてゆける感覚、それは見守っていてくれる誰かがいるからだと気付いた。
 拓郎は、皆に手話を教えている悠里を見て静かに微笑んでいた。

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17・瞳閉じれば

Posted by 泡辺海太 on

17・瞳閉じれば

 結局、走ったのにも関わらず拓郎と悠里は遅刻するはめになってしまった。理由は、恥ずかしくなった悠里が「降りる」と言い出したからだ。放課後、二人は担任から社会科資料室の備品置き場の整理を頼まれていた。担任は社会の先生なのだ。

『ほんとごめん……』
「ま、別にいいけど」

 拓郎はそう言うが、朝の言葉が思い出される。「雑用係なんか嫌だぞ」とはっきり言っていたのに、自分のせいで遅刻してしまった。気まずくて目を合わせないように作業していたが、こっちを見つめている視線に気づいて慌てて顔を上げた。すると手話はあまり用いずに口語でゆっくり話しかけてきた。

「陸は……結構、ああ見えて難しい奴だと思う」
『そうなの?』
「誰にでも良い顔するのは、皆に必要とされたい願望が強いからだ。だから、悠里があいつを必要とするのはあいつにとって救いになってるんじゃねえかな。あいつは気づいてないかもしれないけど」
『な、なに……突然……』
「だから、あいつを好きなこと、別にいいと思う。お前はその気持ち、恥ずかしがる必要ないと思う」

 正面から見つめられて悠里は顔が火照るのを感じた。一重だと思っていた拓郎の瞳は、こうして見ると奥二重なことに気づく。きりりと引き締まった目元と整った眉毛は冷たい印象がするが、よく見てみると表情は穏やかだった。投げかけられる言葉も、凛と見つめる視線のようにいつも真っ直ぐなことを思い出した。
 拓郎は朝の様子を見て、悠里が本当に陸のことを好きなんだということを理解した。昨日はただの勘違いだろうと思っていたが、体を熱くする悠里を目の当たりにして本当のことだと実感したのだった。

『でもおれはこんなだし、どうやったら陸が、おれのこと、好きになってくれるか、わかんないから……おれは、お荷物だから……』
「こんなとか、お荷物とか言うな」

 そこで急に拓郎の顔つきが険しくなった。

「俺はお前じゃないから、耳が聞こえない怖さとか辛さとかわかんねえけど、音が聞こえなかったら俺は耐えられない。でも、お前はここまで生きてきたじゃねえか。それだけでもう、すごいんだよ。だからそんなこと言うな、少なくとも俺だけは思ってねえから。陸だってそう思ってるから一緒にいるんだろ?」

 そんなこと今まで言ってくれる人はいなかった。生きているだけですごいなんて、そんな言葉はお世辞としか思えなかったが、拓郎の目は真剣だった。



「俺はお前のこと強い奴だって、ずっと思ってたよ」



 何で拓郎がこんなに優しい言葉をかけてくれるのかわからない。同情からか哀れみからか、それともただの気まぐれか、何にせよ嬉しかった。

『お、おおおれ、最優秀指揮者賞、とるっ、拓郎のためにっ! 拓郎が期待してくれるから、初めてがんばろうって思えた……』

 瞳を潤ませて熱弁すると、拓郎の手が伸びて悠里の髪を撫でた。頭を撫でられ額にかかった前髪をかき上げられると、拓郎の顔がはっきりと見えた。それが恥ずかしくて目線を落とす。

「お前の目、きらきらしてる」
『な、ナミダが……うれしくて』
「そういうとこも、すげえいいと思う」

 悠里の瞳に滲んだ涙を見て、拓郎は慈愛の表情を浮かべた。そして何か思い浮かんだように問いかける。

「悠里、このあとヒマか?」
『え、部活あるけど……』
「さぼってちょっと付き合え。備品整理させられてたって言えば大丈夫だろ」



 連れて行かれた先はヘアサロンだった。悠里は初めて踏み入れる空間に緊張していた。そして、なぜ自分がここに連れて来られたのかもわからなかった。忙しそうに働いている美容師は皆お洒落で自信に満ち溢れており、自分とは正反対の人種なんだと感じた。そんな思いで店内に入ると、奥で一人の女性が手を上げた。

「拓郎くんが頼みごとって珍しいわね。お友達?」
「あいつに借り作るようであんましたくねえけどな。悠里、この人兄貴の彼女」
「悠里くんて言うの? よろしくね」

 眉尻を下げて笑う美容師は、髪の毛を白に近い金髪に染めて頭の上でお団子を結っていた。メイクはナチュラルで素顔も美人なのだということがうかがえる。その目元がとてもやさしくて、悠里の緊張は少し解けた。

「どんな髪型にするの?」
「目が見えりゃ何でもいい」

 よくわからないうちにシャンプー台へ誘導され、洗ったあとは鏡の前へ座らされる。嫌いな鏡の前は体が強張るけれど、鏡越しのお姉さんの笑顔でなんとか俯かずに保っていられた。悠里がしゃべれないということを拓郎が伝えてあるのか、お姉さんはいつでも表情で悠里に話しかけ、気持ちを和ませた。

 三十分後、肩まであった悠里の髪はこざっぱりとカットされ、とりわけ前髪は眉毛の上まで切られていた。それまで見えていなかった形のいい眉と大きな愛嬌のある瞳が丸見えだ。
 悠里は涙目になったが恥ずかしさからではない。全てが眩しくて、世界がこんなに明るかったことに気付いたからだ。

『明る、い……』
「見えてるもんとか、違ってくるんじゃねえの?」

 今まで見つめられることはあっても見つめることはあまりなかったが、悠里は自分から拓郎と向き合った。怖いと思っていた瞳は悠里を見つめて微笑んでいる。一番それが、眩しくてたまらなかった。



「ちゃんと目見れば言葉なんかなくても伝わるんだよ」



 悠里はそんな簡単なことに今気付いた。今度は、眩しさからではない涙がこみ上げてくるのを感じた。

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4・遠野殺人(トオノ・キル)と湖畔柚(コハン・ユズ)

Posted by 泡辺海太 on

4・遠野殺人(トオノ・キル)と湖畔柚(コハン・ユズ)

★多大に厨二、猟奇・流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 キルとそのパートナーはひたすら走っていた。長身のキルのリーチに追いつかず躓いたのに気付いて、倒れかけた体を抱きかかえる。その恐怖にキルのパートナーは泣き始めた。

「ひぐっ、こ、殺さないでっ! オマエの言うとおりにするからっ!」
「殺さない。お前は俺が守ってやる」
「え?」
「とにかく走れ。まずはあいつから離れることが先決だ」

 二人は他の受刑者たちと同じように喉が枯れるまで走った。走って走って最上部の三階まで行った。キルはその先にある屋上へ行きたかったのだけれど扉は南京錠で錠を落とされており、そこの扉の前でようやく一息ついた。小柄なパートナーは息を上げ汗をかきぐったりとしている。

「平気か、ええと、湖畔……」
「湖畔ユズ……」
「ゆず……」

 そこからはまた沈黙が襲った。ユズは喉が渇いてしゃべる気になれなかったので、体の疲労を取るため横になった。繋がれた手錠がコンクリートに当たり硬質な音を立てた。
 しばらくたって、喉の渇きは癒えないが落ち着いたユズは隣でぼんやりしているパートナーへ声をかけた。とにかく、この男の素性を知りたかった。そうしないと恐怖に押しつぶされそうだったからだ。

「お前は疲れてないのか?」
「疲れていない」
「そうか……ええと、お前の名前はなんだっけ」
「トオノキル」

 なんだかロボットみたいな奴だと思った。声に抑揚がないし会話も必要最小限のことだけ。表情も能面のようだ。

「……遠野、何でおれをパートナーに選んだ」
「お前が俺に謝ったからだ」
「え?」
「足がぶつかった時」

 カフェテリアに集まったとき彼らは対面していた。その時、テーブルの下で足がぶつかってしまったのだ。ユズはキルにジェスチャーも添えて「悪い」と伝えた。

「俺の周りにはそういう奴はいなかった」
「はあ? 普通だろ? 一体どんな生活送ってきたんだよ」
「俺の方こそ、お前がどんな生活送ってきたのか知りたい」
「いたって普通だよ。普通に学校行ってバイトもやって……」
「それが本当なら、何で第一級重罪者に混じってこんなところにいるんだ」
「おれが知りたい……おれは冤罪だ、悪いことなんか何もやっちゃいない。誰かの陰謀でハメられただけなんだ」

 ユズはまた泣き出した。よく泣く奴だ、とキルは瞳に浮かぶキラキラしたものを見つめていた。

「家に帰りたい……ここ出て、家族に会いたい……」
「じゃあ、俺に着いて来ればいい」
「え?」
「一緒に出るぞ」

 キルは何の根拠もないがそう言わずにはいられなかった。ユズは鼻をすすり上げて、この妙な男の方を向く。さっきよりも顔に表情が浮かんでいるような気がした。

「一緒にっつったって、お前は何して捕まったんだよ」
「俺はテロリストだ」
「テロリストだと?」

 緩みかけた警戒心がまた戻ってきた。こいつは危険な奴だ。できれば距離を取りたかったが、手錠に繋がれて離れられる距離は限られている。それに、警戒しているというのを気付かれて怒らせるのも嫌だった。

「悪者に裁きを与える、正義のためのテロだ」
「正義でも、殺すのは良くないと思うけど……」
「クズを殺して何が悪い? 生きる価値もないカスだ。例えば、お前をはめた奴ら、そう考えたらどうだ? 殺されても当たり前だと思うだろう」
「……でも、殺してしまっては、そいつは一生悪者のままだ。更生して罪を償うって生き方もあるだろ」

 それを聞いたキルは少し苛立ったようにため息をついた。ユズはその反応に肩を潜めた。こいつがいつ逆上して殺してくるかもわからないのだ。

「人は生まれながらに悪者なんだ。その後は環境によっていい方へも変わってゆくが、変われなかった者は一生悪人なんだ。ここにいる犯罪者のようにな」
「……」
「お前は、見たところマトモな人間だ。だからわからないんだ、どうして犯罪者が罪を犯すのか。それは必然だからだ。そうしなければ生きてゆけないからだ。いくら裕福な家に生まれたって人間の本質というものは変わらないんだ。金持ちでも不正をする奴はいるし貧乏でも慎ましく生きる者はいる」

 言っていることがずいぶんと悲観的だと思った。遠野はどうやって生まれてどのように育ってきたのだろう。遠野キル、もしかしてこの『キル』は殺すという意味の『キル』なのではないのか、とユズは考えた。それが本当ならこいつの親はどんな意味でこんな名前をつけたのか。考えただけで恐ろしくなったが、同時に胸の奥がつんと痛くなった。

「けれど俺が嘆いているのは、正直者がバカを見る世の中ということだ。貧乏でも慎ましく生きる者、弱者に手を差し伸べる者、そして犯罪なんてものに無関係で警戒心のカケラもない、そういう者を狙った犯罪が増えているということだ。お前がいい例だろう。俺は、悪者に裁きを与えこの世界を浄化するために自分の命をかけてクズどもを殺してきた。でも、俺のような奴は立派な犯罪者らしい。禁固318年、あのバクハよりも重罪なんだ。そして俺はここにいるクズどもに対して塵ほどの同情心も持っていない。あいつらは殺されるべくしてここにいる。俺という救世主にな」
「オマエ、ぶっ飛んでるよ……」

 キルは饒舌に話したと思ったら、その後はぱったりと口をつぐんだ。辺りを見回し、色々と調べたそうだった。そして「立てるか」と尋ね、ユズは尻についた埃を払い立ち上がった。


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3・剣八一刃(ツルギ・ヤイバ)と砂浜漣(スナハマ・サザナミ)

Posted by 泡辺海太 on

3・剣八一刃(ツルギ・ヤイバ)と砂浜漣(スナハマ・サザナミ)

★多大に厨二、猟奇・流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控え下さい。

「やだよォっ、こんなゲームに巻き込まれたあげくパートナーがオマエとなんて、おれはどこまで不幸もんなんだよォ! おれはお前となんか強力しないぜ! 協力して欲しかったら謝って土下座しろっおれにっ!」
「貴様には未だにクソそそられるぜ。その低脳じみた口調もな。仲良くやろうや、サザナミ」
「名前よぶなよっ!」

 手錠をかけられた手を思い切り引っ張って離れようとするサザナミは、以前ヤイバにレイプされていた。その恐怖がまだ残っていて一生懸命離れようとするが、繋がれたものは外せない。

「土下座すんのはそっちじゃねえのか? オレ様の方が強えぜ。守ってもらいたかったら黙ってケツ貸しな」
「ひいいいいっ! 絶対嫌だよォっ!」

 鳥肌が立つほど気持ち悪かった。夏のつなぎは暑いのでTシャツになっていると、こいつがいつも変な目で見ていたことを思い出した。ヤイバとは同室だったのでそれを回避することができず、気のせいだと思うようにしていた。でも、汗で透けたシャツとか、ちょっとかがんだときとか、隙間から肌が見えたりするとき、必ず奴の視線を感じた。とりわけシャワーのときなんか最悪だった。

 待望のシャワータイムなのと同時に最悪のシャワータイムだった。あいつのねっとりとした視線が気持ち悪くて吐きそうなくらいだった。サザナミは女の子大好きないたってノーマルな性嗜好だ。いくら野郎ばっかりの刑務所に入れられたってそれは変わらないほど揺るぎないものだった。差し入れのエロ本でこっそりしっぽり抜いているときも、あいつの視線が気になって勃つものも勃たなくなる気がした。いや、勃ったけど。

 繋がれた手錠が恨めしい。あろうことかヤイバは、自分の手錠とサザナミの手錠の両方を繋いだ。一つでも外せないのに二つとかどんだけなんだよォーとサザナミは泣いた。
 天然バカなサザナミは、アホな子ほど可愛いと、よく同室の先輩から可愛がられはしたものの、そういう意味で本気で迫られたことなんてなかった。いわゆる美少年でもなかったし、自分でも女々しい顔だとは思っていない。それがなんでここまで、ガチムチで乱暴なオレ様野郎に執着されなきゃいけないのか、誰か教えてほしかった。
 それにもう、守ってくれていた先輩はもういない。こいつにレイプされた直後、男のプライドも恥じらいも全て投げ打って、されたことを告白したら、それ以降は襲われることはなかったけれど、今度は視線と言葉で犯される日々が続いたのだ。
 サザナミはおそるおそる、隣にいるガチムチの様子をチラ見する。

「やっとこっち見たな、サザナミ。お前のそのうなじを吸い上げて頬も髪の毛も目ん玉も全部舐め上げて、思い切りケツにブチこんであんあん喘がせたあと、その細い首を締め上げたいぜ」
「ぎええええええええっ! 止めろよォ! セクハラ反対だよォっ!」
「ああ、今から興奮してきた。これで思う存分ヤれるってわけだ。四六時中、二十四時間」
「しろくじちゅうっ、にじゅうよじかんっ! おおおおおれっ、しんじまうよォっ!」

 サザナミは自ら牢屋の鉄格子の中に滑り込んで「もうここから出たくないよォ!」と思い切り扉を締めた。あの日のことを思い出していた。

 ある、食事のあとの自由時間、サザナミはご機嫌だった。なぜなら大好きな鳥のから揚げがメニューに出たからだ。美味しいなー美味しいなーと始終笑顔でたいらげ、それは自由時間まで続いていた。

「ずいぶんと機嫌が良さそうだな」

 すると突然ヤイバに声をかけられた。
 訝しがって、げーなんだよこいつゥーセクハラ野郎がきたよォー。と内心思っていたが、次の言葉で一変した。

「から揚げ、もっと食いたいか?」
「食うっ!」

 満面の笑みで即答だった。
 こいつ、案外イイ奴じゃんっ! ごめんよォー今まで変態とかセクハラ野郎とか思っててー! と心の中で謝罪した。しかし、その後はそのまま小部屋へと連れて行かれ、ヤイバの手下に押さえつけられ散々喘ぐこととなる。地獄絵図だ。

 サザナミはその記憶を振り払おうと、ふるふると首を思い切り振った。
 ヤイバはいとも簡単に牢屋の扉を開けると、サザナミの首根っこを掴んで引きずり出した。鍵がかかっていないので力勝負では勝てないだろう。

「ひぐっ、こんなにも外道な奴におれァ会ったことない……」
「オレ様も、貴様ほどアホな奴には会ったことねえなあ。でも、お前が走らないことには殺すしかなくなるな。オレ様にここで殺されるか、バクハに食い殺されるかどっちが好みだ?」
「ど、どっちもいやだァ!」

 当然ながらこの組が、一番走るのが遅かった。


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2・空海蒼志(クウカイ・アオシ)と焔緋色(ホノオ・ヒイロ)

Posted by 泡辺海太 on

2・空海蒼志(クウカイ・アオシ)と焔緋色(ホノオ・ヒイロ)

★多大に厨二、猟奇・流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控え下さい。

「うわあああああああ!」

 カフェテリアを抜けてみんな散り散りに逃げる。
 まずは武器を手に入れないことにはどうしようもない。殴り合いで殺せるほどヤワな奴らではない。ここにいるのはみんな犯罪者なのだ。さらにバクハのような化け物とどう立ち向かえというのか。
 アオシのパートナーは焔ヒイロという青年だった。ヒイロは館内地図を確認して、B1と書かれた文字を指さした。

「まずは武器を手に入れようぜ。ここの刑務所は地上三階、地下一階。地下へ下ってしまうと逃げ場がなくなるから、皆まだ手探りの状態のときに調べといた方がいいと思うんだ」
「おれと協力する気か? お前、族の頭だった焔ヒイロだろ。足手まといになるからっててっきり殺されるかと思った」
「おいおいぃー、オレがそんな薄情モンに見えるかあー? それにあんなパフォーマンス見せられちゃ味方は多い方がいいだろうよ。ま、使える奴は使っとく。精々オレの役に立てよ」

 ヒイロは「へへっ」と懐っこい笑いを浮かべて、びしばしとアオシの薄い肩を叩いた。

「それにオレはお前を知ってる。別棟でも有名だぜ? ケツ掘られそうになった相手フルボッコにしてそいつのちんこ握りつぶして再起不能にしたって話。お前だったら万が一武器が手に入んなくても何とかなりそうだからな。へへへっ!」
「……あれは無我夢中だったから」
「今だって無我夢中だろ。お前、名前は?」
「空海アオシ」
「じゃ、アオちゃんって呼ぶよ」
「止めろ。それより、あのツンツン頭は何者だ?」
「バクハはアサシンだったんだ。とりあえず、あいつに会ったら応戦せず逃げた方がいい」

 先ほどの光景が蘇る。ヒイロとアオシは扉側の席だったので一足早くあの場から立ち去った。しかし、手錠で繋がれたまま走るとなると少々不便だ。二人とも利き腕は右手なので、アオシは自分より強そうなヒイロに利き腕は譲ったが、内心、殺されるのではという懸念もあった。しかし思ったよりも気さくでいい奴そうで安心する。犯罪者にいい奴というのも変だけれど。
 地下への階段を下りながら話を続ける。電気が通っていないので視界が悪い。ヒイロは暗闇でも目が利くのか恐る恐る下りるアオシを先導した。

「ところでアオ、お前は何して捕まった?」
「ヤク」
「パクられたのはそーだけど、実際はもっとやばいことしてたんじゃねーのー? 何人殺した?」
「十人はくだんねえかな」
「はっはっはっ! お前がパートナーでよかったよ。ここにゃ刑期が長い奴でも人殺したことない奴がわんさかいるからな。バトルになったら躊躇うなよ、足手まといにだけはなるな」

 ヒイロもノっているようだ。バクハと戦うことになったらどうするのだろうか。さっきは逃げろと言ったけど生き残れば戦わなければいけない時が来るだろう。何か秘策があってのこの能天気さならいいけれど。

「それよか、おめーもっと早く走れねーかな。ちんたらしてっとその腕噛みちぎってポイすっぞー」

 良い奴だなんて前言撤回、それは冗談に聞こえない。ヒイロは悪ガキ共を束ねていたグループのトップに君臨する者であり、その身体能力はずば抜けていた。アオシは運動神経は良い方なのだが、それでもこの暗がりと手錠で繋がれた手首を気にして思うように走れない。しかしヒイロはそんなのものともせず驚異的な速さで進んでゆく。

 地下は独房だった。糞尿の饐えたような匂いがする。暴動の発端はここの牢獄に入れられた狂人だったと伝えられており、暗闇の中、じっと身を潜め暮らすことを強要された受刑者はだんだんと精神を蝕まれ狂ってゆく。しかし狂いながらも外に出たいという切実な気持ちだけは失わなかったようで、看守を捕まえると鍵を開けるよう恐喝し地下の受刑者はみな解放された。そこからは想像を絶して凄まじかった。

「オバケでも出そーだな……くせーし!」
「怖いのか? ゾクのアタマだった奴が」
「きゃーこわーいっ、アオちゃん助けてっ!」
「キモ」

 アオシは怖いわけではなかったが、何しろ暗い。いきなり手錠があらぬ方向へ引っ張られるので、そのたびに焦った。たまりかねてヒイロのつなぎを背中から鷲掴みにした。ここではみな、オレンジのつなぎが受刑服なのだ。それをヒイロがにやにやした口調でばかにする。

「何だよ、こえーってのか?」
「暗くて見えない。早く歩きたいなら文句言うな」
「まあ、夜目は利くんだ、日陰で生きてきたもんでね。バクハもそうだと思うぜ。たいてい、強い奴は暗闇でも目が利くんだ」
「おれが弱いとでも言いたいのか」
「その生意気な口調に釣り合うほどには強いと思ってるけどね。ガッカリさせんなよっ」

 ふと、ヒイロが違和感を感じたようで、ある一室の前で立ち止まった。アオシには何があるのかまったく見えていない。

「ここだけ扉が閉まってっから何か怪しくね? ドアノブの埃の量も他のとこに比べて少ない気がする」
「開いてんのか閉まってるのかも見えないからなんとも言いようがないな」
「来い。調べてみる」

 足を踏み入れたら、室内は一層匂いがきつかった。狭い室内には用を足す用のバケツと固いベッドがあるのみだった。他には何もない。こんなところで光も射さず一生暮らさなければいけないのなら発狂してもおかしくない気がする。ここの空気を吸うだけで息苦しく、こっちまで狂ってゆくようだった。
 ヒイロはベッドのスプリングを確認していた。キシキシと寝心地が悪そうな音が響き、そこに微かに金属が擦れるような音が響いた。ヒイロはすかさずその音の方へ手を伸ばす。どうやら枕の中にそれはあった。

「見ろ! 弾薬だ!」
「見えねえ……」
「リムドだぜ。リボルバーの!」
「これが隠されているっていう武器なのか? ここにいた受刑者が隠してたんじゃないのか?」
「バッカ! 頭わり! バッカ! 何で食うメシにも困ってた奴がクソの役にも立たねえ弾丸なんざ後生大事に持ってなきゃいけないんだよ、本体ならまだしも。しかもリボルバー限定だぜ? ふははっ、この刑務所のどこかにこいつを装填できるもんが隠されているってわけだ……銃さえ手に入れたらこっちのモンだぜ、バクハなんて即殺してやんよ……あいつのはらわたほじくり返してユッケにして食ってやる!」
「キモ」

 ヒイロも充分この空気にやられてるな、とアオシは思った。狂っている。


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1・自由を掴むにゃん!(R猟奇・流血表現アリ)

Posted by 泡辺海太 on

1・自由を掴むにゃん!

★多大に厨二、猟奇・流血表現があります。苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 近未来の地球。
 都市はスラム化し青少年の犯罪率が増加。刑務所は飽和状態。犯罪率の多さに、ろくに取り調べもせず冤罪でぶち込まれる者もいた。とりわけ数の少ない少年刑務所は稼働率200%を越えている。新しく設立したくても、人口が増えすぎて一般人の住む場所すら困っているのに犯罪者の居場所なんて作れるはずもなかった。更に法務省の財政も逼迫している。
 そこで政府は考えた。更生プログラムの一環で殺し合いをさせればいいのではないのか。どうせ家族から見捨てられた者ばかりだ。こちらで殺す手間が省けるのはありがたかった。そして、テストと称してその第一回目が行われようとしていた。



「――ルールはこうだにゃん! キミたち40人で殺し合いをしてもらうにゃん! でもね、嬉しいことに二人一組になってもらうんだにゃん! よかったねっ、いいパートナーにさえ恵まれれば、キミたちのそのクソったれな命は一日や二日、長く生きられるかもしれないんだにゃん!」



 今は使われていない旧刑務所のカフェテリアで、壊れかけたTVから能天気な女の子の音声が聞こえる。残念ながら映像は映らない。しかし、集められた受刑者はその黒い画面を一心に見つめている。

「優勝者には、金メッキで出来たトロフィーと外に出られる自由が与えられるにゃん! そ・し・て、戦いの火蓋はここ、旧刑務所で落とされるんだにゃん! つい最近の暴動でここが破壊されたのは知ってるはずにゃ! 今では使われてないけど、リサイクルというのもエコでいいにゃん! 地球には優しくにゃ!」

 先月、詰めに詰め込まれた収容者が暴動を起こしここは破壊された。火をつけ、破壊し、爆発させた名残で、ガレキが散乱し至るところに穴が開いている。キッチンにはまだ食べ物が残っているのか腐ったような匂いが漂っていた。あるいはまだ片付けられていない死体の匂いなのか。

「そしてそして、臆病者がいると殺し合わないから困るよにゃっ! だからひとつのところに留まって出てこないブタ野郎防止のために、この刑務所の色んなところに武器を隠しているにゃあっ! だからみんな、頑張って探し回って見つけてにゃ! ファイトおおおおお、いっぱあああああつ!」


 その声に便乗する者は誰もいない。



「ぷっ……面白そうじゃねぇか、乗ったぜ」

 机に足を乗せてイスを揺らしていたツンツン頭の受刑者が笑っていた。不敵な笑みを浮かべて、さも楽しそうにけたけたと笑う様は不気味だった。

「みんなオレが殺してやっから、こんな悪趣味なクソゲーム早く終わらしてシャバの空気を吸いたいぜ」
「ふうん、囚人ナンバー17005 轟爆破(トドロキ・バクハ)。キミは……あらら刑期220年。終身刑かにゃ!」

 録画かと思っていたら、LIVE映像だったことに驚いた。この様子をどこからか見られているのだ。受刑者たちはみな一斉に辺りを見回した。しかしカメラらしきものは見つからない。

「はは、所長もキミに全員殺してもらおうとしているのかにゃ! 始めは成功の実例が大事! 今後続けていけるのかはキミ次第ってことにゃ! でもね、キミだけ強いとあまりにも不公平にゃあ~、だからパートナーにはこの子をつけてあげるにゃ!」

 その瞬間、TVの画面が切り替わり、ある少年の顔が映し出される。

「ひえっ、ぼ、ぼくっ!?」

 ガタガタと震えるのは、背が低く頼りなさそうな少年だった。バクハは無関心にTVのモニターを一瞥し、大きな欠伸を一つした。

「そんで、何を称してパートナーというのかというと、二人でこの手錠をつけてもらうんだにゃん! みんな、パートナーとは仲良くね! 手錠は皆のポッケに入っているにゃ!」
「おい、パートナーとやらは自分で選べるのか」

 また声が上がった。今度は真ん中の方に座っている眼鏡をかけた青年だった。

「俺はこいつと行く」
「えっ、誰だよオマエ! 勝手に決めんなよ!」

 目の前に座っている少年を指差してそう言った。その真意はわからない。この反応を見れば知り合いでもなさそうだ。

「囚人ナンバー20154 遠野殺人(トオノ・キル)くん。そんな弱そうな子でいいの? まあ、キミがそれでいいならいいにゃ! パートナーでも殺すのは自由だけど、意外と死体ってのは重いから気をつけてにゃ! 腕を切り落とすにはのこぎりがいるにゃあ! そののこぎりもどこかに隠されているはずだけど、早い者勝ちにゃああああー!」
「いやだぁああああああ!」

 勝手に指名されたパートナーは泣き喚いている。
 なるほど、そういう手もあるのか、と何人かの非道な犯罪者たちは思った。確かに、どこの馬の骨かもわからない奴と手錠で繋がれているよりも一人で行動した方が都合がいい。

「他の人は特に平気かにゃ? それじゃあこっちで勝手に決めるにゃあん!」

 テレビにパートナーが映し出され手錠を締めるよう促される。ちゃんと締めていないものは監視カメラで分かるらしく、周りの者に調べさせた。そして二十組の受刑者がこのプログラムに参加する準備が整った。



「オレにはパートナーなんてもんはいらねえ」



 バクハは手錠で繋がれている少年の首を持ち上げると力を込めた。「ぐゥっ」というくぐもった声と共にゴキュっと首の骨が折れる音が聞こえ、抵抗する時間すら与えられないまま死んでしまった様子だ。口からは泡と血がブクブクと零れ、小便を洩らしていた。
 次にバクハは少年の手首を掴むと肉にかぶりついた。ブチイっと肉が千切れ鮮血が散らばる。それを二回繰り返すとピンク色の肉の間から白い骨が見えた。腰を折り曲げてそこに踵を振り落とすとメキャっと割れて、見るも無残な少年の手首がバクハの利き腕にぷらーんと繋がれていた。バクハは忌々しそうに腕を振ると、それがべちゃりと床に叩きつけられた。そして最後に血で汚れた口元を拭い、ペッと唾を吐き捨てる。
 皆、固唾を呑んでその様を凝視していた。恐怖で動けなかった。

「こらこらあ! まだスタートの合図言ってないにゃ!」
「ちょこまか動き回る野郎どもを見つける手間が面倒だ。お前ら、自由が欲しいなら今ここで向かって来い」
「やれやれ聞いてないにゃあ……まあいいや、そんじゃあスタートオオオオオオオオ!」

 その始まりの合図より先に、皆弾かれるように外へと逃げ出していた。


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16・瞳閉じれば

Posted by 泡辺海太 on

16・瞳閉じれば

「おはよう、ゆうちゃん!」

 マンションの下に着くなり、陸が笑顔で声をかける。
 悠里は昨日、自分が好きだと自覚したことに恥ずかしくなり、控えめに『おはよう』と手話を返した。何だかぎくしゃくしているその様を横目で見つつ、拓郎は陸を軽くキックする。

「おい、俺には?」
「あ、いたの拓郎」
「てめえ」

 悠里がくすりと笑う。いつもの光景に胸を撫で下ろしたのはここにいる皆だった。胸の内を打ち明けた悠里、悠里に嫌われたんじゃないかと思っていた陸、告白を聞いてしまった拓郎、皆が皆、明日が来るのを戸惑っていた。ただ、拓郎だけが傍観者な分いくらか気持ちは楽だった。

「もうすぐ合唱コンクールだな。ゆうちゃんとオレはライバルだよ。最優秀指揮者賞の」
『しょう……?』
「狙ってないの? あれかっけーじゃん。オレ、三年間指揮して取ったことないんだよ」
「お前、リズム感が全然なってねえからな」
「ちげーよ。ほら、リズムっていわゆる個性じゃん? オレはさ、唯一無二のリズムを体内に宿しているからさっ」

 元通りそんな会話がされる頃には時間が迫っていた。走らないと遅刻かもしれない。陸は自然体で悠里に言った。

「ゆうちゃん、オレの背中乗る?」

 悠里の心臓が急稼動し始める。嬉しい。もちろん陸に触りたい。でも、熱くなる体を悟られたくない。鼓動が苦しい。それに、拓郎が見ているのも何だか恥ずかしい。
 返事をしない悠里を、悪い方向に捕らえてしまった陸は「やっぱな」と頭を掻いた。

「……オレ、気持ち悪い?」

 少し傷ついたように言われたので悠里は必死にかぶりを振る。

『あのときは、少し、びっくりしただけっ……』
「そうかな。ゆうちゃん引いてたでしょ? 別に言ってもらっていいんだよ、きもいって」
『ち、ちがうよっ、そんなこと思ってない! 普通のことだってわかるし、おれ、ほんとは、すごい、えろいんだよ……わかんなかっただけで、ほんとは、すごい、興味あるんだ!』

 顔を赤らめながら必死で否定する悠里に陸は吹き出した。悠里は何で笑われているのかわからず、泣きそうな顔で拓郎に助けを求める。

「陸、その辺にしとけ。んな恥ずかしいことわざわざ言わせる必要ねえだろ」
「言わせっ……? オレが言わせたことになってんの!?」
「変態」
「ちょっと! その言い方へこむから!」

 拓郎は腕時計を確認すると、このままだと本気で遅刻だなと思った。拓郎と悠里の担任は遅刻にうるさく、遅刻者には放課後、黒板掃除やプリント整理などの雑用をやらせることになっていた。これで悠里たちのクラスの遅刻者の数は激減したのだった。

「悠里、乗れ」
『え?』

 拓郎はしゃがんで背中を差し出した。悠里も陸も、これには目を丸くしていた。

「俺の方が陸より足速いしな、さっさとしないとマジでやばい。俺は雑用係なんか嫌だぞ」

 「早く」と急かすので、悠里は慌てて拓郎にしがみついた。
 きっと、拓郎は気を利かせてくれたんだ、恥ずかしくて陸に触れない自分を助けてくれたんだと、その申し出に感謝する。

 拓郎の背中は陸の背中より大きくて分厚かった。襟足にかかる黒髪からは、少し大人の香りがした。香水だろうか。それに酔ってしまったのか密着しているとどきどきする。太ももを支えるその腕は力強く、自分が動いても太刀打ちできないだろう。もし、この腕に押し倒されたら抵抗できずされるがままだろう……そんなことを考えていたら下半身がどうしようもなく疼いてきた。心臓と同じ早さで悠里のそこも脈打っている。
 悠里は昨日からの自分の妄想力に焦った。どんどん歯止めが利かないくらいえろくなっている自分。覚えたてのサルみたいに、そのことだけが頭の中で回って離れない。涙を滲ませながら必死に九九でもして気を紛らわせようとするが、拓郎の体温が自分を逃さない。

 拓郎は背中に違和感を感じていた。そして、やっぱり自分が背負って正解だったと安心した。陸を想ってこんなに体を熱くしていると思ったのだ。
 そんな陸は拓郎の背中で悶えている悠里を見ていた。そして、昨日の母親が連れてきた男のことを思い出して、また心が沈んでゆくのを感じた。

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